この星は生きています。

生命の螺旋を描きながら、躍動し、進化しています。
その大きな生命の中で、人、動物、植物、鉱物は、常に大地とも連動しています。
何一つとして関連していないものはありません。
そして、それを統括する【星の意思】が存在します。

その星の意思は、かつては【絶対創造主】、【母】と呼ばれました。
あらゆる生命が母とともに生きていたのです。
森羅万象の理が【神】となり、自然と調和していました。
ですが、人の傲慢によって大きく傷ついた大地の修復のために、
母は力を失い、その後の多くの戦争を経て、荒廃していきました。
そして、【人の王】と神々の戦いが終わり、人は自由となりましたが、
大きな責任を負うことになったのです。(※【野良肉】)

その後、今の世界の始祖ともいえる【偉大なる者たち】は、
【ウロボロスの環】をもちいて、【愛の巣】から世界を導いています。
地上から見れば世界を見捨てたかのように映りますが、
彼らは人としての愛のありかたを示し続けているのです。

今は激動の時代なのです。
【彼】・・・、【悪魔】と呼ばれる存在が必要とされています。
この星の意思である【世界の理(ことわり)】が、救世主を欲しているのです。

歴史は決まっています。
【あの日】【彼】は名も無き英雄とともに死んでしまい、
世界の浄化も完全には果たされません。
世界の人口は半分に減少し、人々は疲れ果てます。

しかしその戦いがなければ、【宿命の螺旋】を絶ち切る者が生まれません。
王の中の王、偉大なる人の王、黒き英雄王、赤き狼。
そのためにも、【あの日】が来なければなりません。
【彼】もまたすべてを知って戦っているのです。

今回のお話は、「ハーレム殿下」から二年後の大陸暦7179年、
【大戦】を始める準備をしているころのお話です。

では、そのお話をする前に、7178年を振り返ってみましょう。






え? 私ですか?
私はあのあと、偉大なる者たちによって、【愛の巣】に導かれました。
そして、【闇の女神】様から、己の使命を聞かされたのです。

【彼】を導くことと、それに対抗する十二人の英雄を探し出すことです。
そのためにあの日、肉体を失ったのです。

ですが、とても幸せです。
大勢の仲間と一緒に楽しく過ごしています。
人の生命は永遠のものなのです。
私は消えるどころか、本当の私になったのです。

今は【緑の園(その)】を統括する責任者でもあるんですよ。
【母】の代わりに星の進化を司っている偉大なる者たちのお手伝いです。
緑の園は、星の植物の生長、進化を担当しています。
私の能力を知っている方には、とても自然なことだと思われるでしょうね。
あのときの【夢】が現実になったのですから。

そして、ミーラ・カーン【大地の守護者】を結成し、
地上の人々を導く使命を果たしているところです。





※ハペルモン共和国

7178年の最大の出来事といえば、
大規模なシステム障害による金融市場の大混乱です。

西部の株式を統括するハペルモンにある「西部金融市場」が、
何者かにシステムを乗っ取られ、でたらめの数字、株価を表示させられます。
当初はすぐにも復旧すると思っていましたが、なかなか直りません。

ハペルモンは、事実上、ルシア帝国の監視下にあるため、
この巨大な大国が揺れるかと思われたくらいの出来事でもありました。




そこで、一時的にシステムダウンした西部市場を避け、投機家は東に目を向けます。
それによって東は一時期、バブルになりました。
従来から西側に劣等感を抱いていた東側は、これを機に追い越そうとします。
しかし、それすらも【悪魔】の思惑通りだったのです。

その表示すらすでに改ざんされており、取引に大きな影響が生まれ、
世界はさらにパニックに陥ります。
これを憂慮したルシア、シェイクの両国は、両市場を物理的に閉鎖します。
しかし、それもすでに手遅れでした。

今度は、金融機関のデータを保有する両国の中央銀行がハッキングされ、
個人、資産(不動産含む)情報が書き換えられていました。
まったく予期していない事態に、両国は自国への対応に追われます。







この事態を受けて、常任理事国でもあり世界の富の中枢でもある
ダマスカス共和国にて国際連盟の会議が行われていました。
ルシア天帝を含めた世界のトップが集まっています。
世界は今、この大混乱の中、一つにまとまろうとしていました。

しかし、それをあざ笑うかのように【悪魔の声】が聞こえてきました。
【ダマスカス中央銀行】の占拠に関する一報です。

会議がここで行われていたのは、まさにここが金融の中心地だったからです。
世界はダマスカスによって支えられていたのです。
【悪魔】は、それを狙ったのです。




ダマスカス中央銀行を占拠したのは、
かつての英雄であり、のちに【金髪の悪魔】と呼ばれる男でした。
彼は、全国家の権力の放棄、階級身分制度と差別の撤廃および、
全人類の人権の保障
を求めます。

一介のテロリストが、天下のルシアを相手に挑発します。
いえ、挑発ではありません。彼は本気なのです。
本気がゆえに、金融システムを狙ったのです。
その天賦の才を認めながらも一笑に付す天帝。
そこには王者の貫禄がありました。世界を担う王の資質です。

要求を拒否し、彼らをたやすく包囲する国連軍。
しかし、悪魔はそれすら承知の上でした。



その結末は、反応兵器による自爆で終わることになりました。
人々は何も知らないまま、光にのまれて消えていきました。
ダマスカスの一般人、約30万人が【間引き】される、大きな事件となったのです。

【術式反応型広域霊体破壊兵器】

人類史上、この兵器を使った初めてのテロ事件となってしまったのです。
この兵器は、人だけを的確に狙います。
自然にいっさいの打撃を与えず、人の霊体に直接ダメージを与えるのです。
肉体から強制的にシルバーコードを切り離す危険な術でもあり、
人為的に痛みによるカルマの清算を促すものです。

かつて【旧時代】と呼ばれた高度な霊的知識を獲得した人類が、
神々に対して使った兵器
と同種のものです。
まさに悪魔の兵器と呼ぶにふさわしいものでした。

これにより一部の重要なデータ以外の顧客情報は消されることになります。
平和になりつつある世界で、さらには豊かな自分の国で・・・という驚愕がありました。
しかし、彼らがそう思っているだけで、世界は平和ではありません。

世界一豊かで安全な国と称されていたダマスカスで、
皮肉にもそれが証明されてしまいました。



この一件の直後にルシア帝国領であるランドロック公国が、独立を宣言しました。
強固な国家統制を誇り、植民地を拡充していたルシアにとっては、
それは虚をつかれたものでした。

対応しようにも、本国のことで精一杯の彼らは、放置するしか手がなかったのです。
大国に、わずかなほころびが見えはじめました。

それを口実に、ルシア天帝は会議を欠席、国際会議も中止となりました。
これにより、世界は劇的に変化することになります。




【RDテロ事変】と呼ばれたダマスカスの大惨事が起こってから、
世界は劇的に変化しはじめました。
金融至上主義に、大きな亀裂が入ることになります。

世界中で混乱が起き、株価ばかりを気にしていた人々は、
その実態である、「物は有限」である事実に気がつきます。
強烈な保護主義の旋風が巻き起こり、物資の確保に躍起になる国家、商人。
それによって、「物資の独占」が発生しました。

一時的にお金という概念が凍結され、紙幣が効果を失います
人が勝手に物につけていた価値が効力を失ったのです。
治安が乱れ、力と暴力、物による支配が強まります。
貧困層はさらに飢え、苦しみ、富める人間はさらに富める事態に陥りました。

それを止めようと、各国の政府は対応を検討しますが、人々の恐怖を抑えることはできません。
死への根源的な恐怖が、民衆を動かしたのです。
他人よりも自分のため、という本能に支配されている以上、とめられません。

大国といえど、・・・いや、鈍重な大国だからこそ、
軍隊による統制を強化し、違反した者を罰することしかできなかったのです。
そうです。世界は【愚者】というガン細胞を抱えているのです。
悪魔がもっとも嫌う存在である彼らによって、世界は混乱の極みに突入します。

大国だけの支配が揺らぎます。
常任理事国だけに牛耳られていた特権を奪い返そうと、
各国はさらなる物資を得ようと奔走します。
また、世界の混乱にともない、様々な組織、宗教団体、個人が動き出します。

【彼】
はトリガーを引いただけにすぎません。
あとは人々が勝手にやったことです。
本当ならば、分け合うこともできたはずなのです。
その自由意志を行使する余地はありました。
しかし、人々はまだそこまで進化していなかったのです。

そして、悪魔は世界を焼くことを決めました

彼がついに本気になったのです。
7178年とは、そういう年でした。




そして、今回の物語は、まだ大混乱から抜け出せていない世界の中で、
すでに動き出していた者たちの話です。その名は・・・

ラーバーン【世界を焼く者たち】

と呼ばれる組織です。
彼らの存在を知る者は、世界でごくわずかです。
彼らが、ランドロック公国の独立に関与していたことも、公にはされていません。
しかし、この男の名前だけは、裏の世界ではとどろくことになりました。

ゼッカー・フランツェン

かつての【英雄】であり、これから本当の意味で【悪魔】と呼ばれる男です。
ラーバーンこそ、彼がこれから始める戦いのために生み出した組織です。
そうです。彼こそ、金融至上主義を破壊した張本人でした。
ついに、彼の計画が動き出します。

今回のお話は、彼らが大戦を始めるにあたり、その下準備をしているころのものです。
ジェイドという名の男が、インダナ地方で体験する物語。
そこでは、彼らが戦う本当の理由が示されることになります。
歴史に残るのは、たった一文字です。
しかし、そこにはすべてをかけて戦っている者たちがいたのです。

さあ、私と一緒に歴史を垣間見ましょう。
この先の未来は確定しています。ですが、その中で生きる者たちは、
かぎりない無限の可能性の中で戦っているのです。
そこには、限界などありません。